就労支援はいつ始まった？日本と海外の歴史・制度・今後の課題を解説

「そもそも就労支援って、いつから始まったんだろう？」
「日本と海外で、どんな違いがあるのだろう？」
そんな疑問を持ったことはありませんか？

実は、就労支援は社会福祉の歴史そのものと深く関わって発展してきた分野です。
特に日本では、ここ20〜30年で大きな制度改革が行われ、障がい者の「働く」機会を支える仕組みが大きく進化してきました。

ここでは、就労支援の歴史を日本と海外の比較を交えながら、わかりやすく解説します。

就労支援の歴史を知ることが、より良い事業運営につながる

就労支援は「単なる福祉」ではなく、社会全体で障がい者の自立を支える大きな流れの中で発展してきました。

歴史を理解することで、今なぜ就労支援が重要視されているのか、その本質をより深く掴むことができます。

さらに、海外の事例を知ることで、これからの就労支援事業に必要な視点や、独自の差別化ポイントを見つけるヒントにもなるでしょう。

就労支援って、どう始まったの？その背景を知る意味とは

就労支援の制度や仕組みは、社会の変化や価値観の移り変わりとともに少しずつ形を変えてきました。その背景を知ることは、今ある制度を正しく理解するだけでなく、日々の支援の中で「何を大切にすべきか」を見失わないためにも役立ちます。

●法改正の流れを理解できる
●障がい者支援の本質を見据えた運営につながる
●海外との違いを知ることで、差別化のヒントが得られる

制度の変遷や背景を押さえることで、就労支援事業の「軸」を見つけ、より意味のある運営につなげていくことができるでしょう。

日本と海外の就労支援の歴史

ここからは、日本と海外、それぞれの就労支援の流れを具体的に見ていきましょう。

日本の就労支援の歴史

戦後〜1980年代 ： 福祉施設中心の支援

第二次世界大戦後、日本における障がい者の就労支援は、生活保障の一環としてスタートしました。

戦後の障がい者支援は、授産施設や福祉工場など「福祉的就労」が中心であり、作業訓練や生活リズムの維持が主な目的でした。

働くことの意義よりも、生活リズムの維持や居場所づくりが重視されていました。

1990年代 ： 社会参加・自立支援への転換期

1993年に障害者基本法が制定され、障がい者の「自立」と「社会参加」が明確に位置づけられました。

また、1997年の障害者雇用促進法改正では、1976年に導入された法定雇用率制度の実効性がさらに強化され、企業の障害者雇用が促進されていきました。

この頃から、単なる「保護」ではなく、「一般就労」を目指す流れが本格化していきます。

2000年代 ： 制度改革と就労支援の多様化

2006年に障害者自立支援法が施行され、就労継続支援A型・B型、就労移行支援といった体系的な支援制度が整いました。

この新制度により、障がい者ができる限り一般企業で働けるように支援する仕組みが国レベルで整備され、福祉施設中心だった支援から、就労を目指す支援へと大きな転換が起きました。

2010年代〜現在 ： 地域密着型・多様な支援スタイルへ

2014年に障害者総合支援法が施行され、2018年に一般就労後の定着を支えるサービスとして「就労定着支援」が新設されました。

また現在では、農作業、カフェ運営、IT・クリエイティブ作業、eスポーツを活用したチーム活動や配信業務など、地域や就労支援サービスを利用する方（以下、利用者）の特性に応じた多様な支援スタイルが広がり、事業所ごとの独自性が求められる時代になっています。

海外の就労支援の歴史（アメリカ・ヨーロッパ中心）

アメリカ ： インクルーシブ雇用モデルの確立

1973年にリハビリテーション法が成立し、障がい者の雇用と職業リハビリテーションが連邦法で保障されました。

さらに1990年のアメリカ障害者法（ADA）により、障がい者差別の禁止と合理的配慮の提供が企業に義務づけられ、障がい者が一般企業で働くための支援が大きく進展しました。

アメリカでは「支援付き雇用（Supported Employment）」が定着しており、障がいの有無にかかわらず働ける社会を目指す文化が根付いています。

ヨーロッパ（北欧中心） ： ノーマライゼーションと地域福祉

北欧諸国では、1960年代から「ノーマライゼーション」の思想が広がり、障がいのある人も地域社会で普通に暮らすことを重視してきました。

デンマークやスウェーデンでは、障がい者が地域社会の中で働き、暮らすことを支えるソーシャルファーム（社会的企業）が発展しています。

一般企業での就労支援だけでなく、地域ぐるみでの包括的な支援ネットワークが特徴です。

またイギリスでは、「アクセス・トゥ・ワーク（Access to Work）」という国の支援制度により、障がい者が職場で必要な支援（交通・介護・特別な機器の支給など）を受けながら働く取り組みも広がっています。

日本と海外の就労支援の違い

日本の就労支援制度は、就労能力やニーズに応じて複数のサービスを選択できるように体系化されています。

たとえば、体力や生活リズムの構築を主目的とする「就労継続支援B型」、雇用契約のもとで働く「就労継続支援A型」、そして一般就労を目指して就職訓練や実習を行う「就労移行支援」などが位置づけられており、利用者の状態に応じて柔軟に組み合わせられる仕組みです。

通所型の事業所で生活リズムやスキルを整えながら就職を目指す支援が広く活用されています。

一方、アメリカやヨーロッパでは、障がいのある人が一般企業で働くことを前提に、職場で必要な支援を提供する「支援付き雇用（Supported Employment）」が主要なモデルとして定着しています。

特別な施設に通うのではなく、企業や地域社会の中で支援を受けながら働くしくみが整備されており、インクルージョン（共生）の理念が強く浸透しています。

北欧諸国では、1960年代以降のノーマライゼーションの思想を背景に、福祉 ・ 教育 ・ 雇用が連携した地域密着型の包括的支援が特徴です。社会的企業（ソーシャルファーム）の仕組みも発展し、地域での働く場が多様化しています。

日本でも、地域共生社会を目指す政策の中で、地域に根ざした多様な働き方を支える取り組みが広がっており、今後は個々のニーズに合わせたより柔軟な支援が求められるとされています。

まとめ ： 歴史を知れば、これからの就労支援がもっと見えてくる

就労支援の仕組みは、時代ごとの社会課題や価値観に応じて変化しながら発展してきました。
その背景を理解することは、制度を正しく使いこなすだけでなく、これからの支援のあり方を考えるうえでも大切な視点になります。

● 日本では、「保護型」から「自立支援型」へと大きく転換してきた歴史がある
● 海外では、一般就労への参加を前提とした支援や、地域社会で共に暮らすという理念が強く広がっている

こうした歴史的な流れを知ることで、あなたがこれから取り組む就労支援事業にも、より広い視野と意図を持ち込むことができます。

制度に沿ってサービスを提供するだけではなく、
「利用者一人ひとりの力が発揮されるために何が必要か」
「地域や社会にどのような価値を生み出せるか」
といった問いを持ちながら、新しい形の支援をつくっていく姿勢が今後ますます求められます。

「社会貢献」と「事業性」を両立できる就労支援を実現するために――。

まずは歴史や制度の成り立ちを理解し、現場でそれをどのように活かすかを考えることから、一歩を踏み出していきましょう。